自分が手を引いたら

私は現場を知らない一研修医だが、どうにも黙っていられないので書く。
そこに手術が必要な患者がいる、麻酔をかける人が必要だ。世に麻酔科をやる人は少なくないだろうが、休むべき時は休むのが麻酔科医で、睡眠を時間単位で調節してやるという話は聞いたことがない。自分がいいコンディションじゃなければ、いい仕事ができない、というのはおそらく本当だ。麻酔科医の数が足りない現状があり、手術に関わる収入のうち、麻酔料の100%を来てくれた麻酔科医に渡す病院まであるくらいだ。病院経営、手術室の他のスタッフ、その他のコストは、外科医が稼ぎ出すことになるが、麻酔科医と外科医の稼ぐ額は、この構図が成り立つような額にはなっていないという印象がある。
結局、手術をしなければ、こんな苦しみを感じずに済む話なのだ。お腹の中が血で一杯になって救急車で2時間走ればいいじゃないか。今日来た患者さんを2ヶ月待たせて、それで悪化して死んでもしょうがないじゃないか。救急手術も、自分たちが断れば他にやる病院がないのをわかっていても、スタッフも睡眠時間も足りないから無理ですから、と断ればいいのだ。受けた患者を死なせることは問題だが、物理的にうちでは受けれません無理です、と言えばいいではないか。
しかし例えば、麻酔さえかけられれば、手術をして助けられる患者がいる。そこに、少し麻酔の勉強をした外科医がいて、専門医には到底かなわないけど、ある程度であればできるという話になれば、その麻酔を外科医がかけるべきだろうか。もちろんそれが最善であるわけはない。そこで、自分が「麻酔科じゃないからできません」となるのか、麻酔をかけて手術をしようとするのか。
そこで、自分が手を出すのか、それとも出さないのか。それを考えるべきはトップの仕事なのであって、現場で手を出してしまった人をどうして責められようかと思う。ベストではないにせよ、そこで目の前にいる患者に医療を提供したいという思いを行動に移すことは、そこだけ見ると間違いなく「善」であろう。その「善」をやめろと言うべきは、いったい誰なのだろうかと。
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